DHA・EPA開発インタビュー

身体に良いとされるDHA・EPA。
昔、スーパーに行くとよく「さかなさかなさかな~」から始まる歌が流れ
ており、ご存じの方も多いのでないでしょうか。
魚を食べる一番のメリットは「DHA・EPA」が摂れるため、と以前栄養士
の先生がおっしゃっていました。
DHA・EPAは血中コレステロール低下や認知症予防、脳機能の向上、抑う
つ効果、アトピーの改善、美容効果など多岐に渡る健康効果が報告されて
おり、老若男女問わず毎日摂りたい栄養成分です。
最近ではDHA・EPAはお魚やサプリメント以外から摂れる商品が増えて
おり、その一部には不二製油の製品がこっそり採用されていることも。
ソヤファームクラブの商品にも不二製油の製品が詰め込まれています。
DHA・EPA開発担当者である不二製油 油脂開発室の栗山さんと橋本さん
に話を聞いてきました。
インタビュアー:ソヤファームクラブ 程

DHA・EPAの研究を始めた理由



程:不二製油とだけあって食品用の油が主軸。チョコレート用やフライ用
市場の製品が多い※ですが、その中でなぜDHA・EPAを研究しようと
思ったのですか?
※他製品はHP照会

橋本:DHA・EPAは医薬品と同じくらいの論文数が報告されている、健
康油です。これからの社会課題である、超高齢化社会や認知症の予防に役
立つ健康油であり、世の中に貢献したいという想いから着目しました。
一般的に、油は太るとネガティブなイメージが多い。体にいい油もある
が酸化しやすいため取扱いが難しく、認知も低く流通量が少なかったです。
最近では最後にかける用途で少しずつ増えてきていますよね。
DHA・EPAは非常に酸化しやすい油で防ぐのが難しいです。一般的に
は酸化の度合いは分析にて数字で評価することができますが、DHA・
EPAは数字上、一般的な油では問題ないレベルでも劣化臭が発生するこ
ともある非常に繊細な油。油の酸化防止について研究を続けてきた僕ら
不二製油にとっても別次元の難しさでしたが、社会のためにもこの難題
を攻略してやろう、と思いました。

程:なるほど、研究者魂に火が付いたのですね。研究の末に、何ができ
るようになったのですか?

橋本:一番は酸化しにくくした、ということですね。今まではDHA・
EPAの酸化した際に発生する劣化臭のため食品の大前提である美味しい、
ができない状態でした。
油の酸化を防ぐには抗酸化剤の選択が重要なのですが、開発チームで可能
性のあるものはほとんど試しました。数百種、数千パターンを検討した
結果、最終的には安心して食べてもらえる一般的なビタミンCなどに落
ち着きました。

ビタミンCは油に溶けないのが常識だった

程:ビタミンCなら簡単にできそうですが、どこが難しかったんですか?

栗山:普通ビタミンCはDHAなどの油に溶けないんです!!ドレッシン
グをイメージしてもらうと分かると思うのですが、水と油が混ざらないよ
うに、水に溶けるものは油に溶けないのが一般的。ビタミンCは水に溶け
る成分、普通油には溶けないんです。でもビタミンCの抗酸化力の高さは
お茶の色保持や品質向上のために多く使われるくらいポピュラーで効果が
あることは知られていました。

栗山:油脂業界の中でも酸化防止のために水に溶ける成分(ビタミンCな
ど)を油に入れることは革新的だったと思います。
そのおかげで飛躍的に酸化が抑制され、普段食べる物にDHA・EPAを入
れられるようになりました。DHA・EPAを摂れる食品の、食べ方の選択肢
が広がったのです。

今では様々な食品に、そして今後の展開

程:常識外れと思われていることによく挑戦できましたね。

橋本:はい、不二製油には創業当初の「挑戦に挑む」の精神が息づいている
からこそできた、と考えています。
また、DHA・EPAを色々な食品に入れるにもそれぞれ工夫が必要で、僕ら
油脂を研究している以外の応用開発のメンバー(最終商品を実際に作り検
証する研究員)の協力もあり、メーカーのお客様にアドバイスできるほど
になりました。例えばDHA・EPAが入っているものとしては牛乳、豆乳、
チーズ、グミ、流動食、かけるオイル、パン、野菜ジュースなどが販売さ
れています。最初の研究から10年以上かかりましたがコツコツ研究を重ね、
報告資料は5500本以上。今も技術の向上は続いています。

程:橋本さんは研究にのめり込み過ぎて『おさかなくん』と呼ばれていたら
しいですね。

橋本:そうそう笑
開発初期はまだDHA・EPAの青臭さ(魚臭さ)があり、僕自身も臭いが
移って、のあだ名でした。今は改良を重ねて直接食べても美味しいDHA・
EPAができています。食品に入れたときの保存条件も冷蔵から常温でも可能
になり、さらに賞味期限も延長もできるようになっています。これらが総合
的に認められて2022年には日本農芸化学技術賞受賞しました。
それに、僕らが原料として使っているのは『藻類』です。お魚のDHAも
元々は藻類を食べて生物濃縮で蓄えられているもの。人工的に増やした
『藻類』だから環境保護や有害物質を含まないこともメリットの1つ。
『おさかなくん』じゃなくて『藻類』なんだけどなー、と思ってました笑

程:じゃあ、もっくん?笑 最後に、今後この技術や製品をこれからどうしていきたいですか?

橋本:超高齢化社会の社会課題である認知症や生活習慣病の予防に役立ちたい、と思って開発してきたからもっと広めていきたいですね。DHA・EPAは1日に1000㎎摂ることが目標とされています※。1商品に目標量全部入れられるのが一番良いですが、技術的に難しい。色んな商品に少しずつでも入っていて、1日の総量として全体で摂れるといいな、と考えています。最終的には僕らのDHA・EPAが入っている商品が必ず食卓に乗っていたらいいな、と思いますね。

※日本人の食事摂取基準(厚生労働省2010年度より)

栗山:酸化防止技術は他にも使える所はたくさんあると思います。油に留ま
らず、さらに広げていきたいですね。老化も元々は酸化、というので、使え
る所は沢山あると思いますし、皆様のお役に立てていきたいです。

程:DHA・EPAの効果が毎年多数報告され認められている。そして世の中
にも社会課題の解決としても必要とされている。売り場や食卓で多岐に渡り
取り入れられている光景がみられる日は近そうですね。ありがとうございま
した!